1956年、彼はコンピュータが普及する前に、この世を去った。しかし彼は、亡くなる40年ほど前に「データ処理」なるものについて語っていた。当時ほとんどの人びとが理解できなかったことだ。彼が経営者として発揮したのは「新しい認識」であった。それによって、誰も注意を払わず、したがって誰も知らず、誰も活用しようとしないものを、ビジネスの次なる領域としたのである。その後、同社は大きく躍進する。
これは〈新しい認識〉と〈起業家的な行動力〉と〈技術力〉とが組み合わさることで、未来の経済、社会、文化がおおきく変化していく可能性を物語るものだ。ここに登場する「彼」こそ、IBMの初代社長トマス・ワトスン・シニア(Thomas John Watson Sr, 1874-1956)であった。