shidara press

Some postcards for a post-disciplinary approach —新しい「知と方法」へ—

タグ: 中産階級

学習する中間層が、社会を変えていく。

by shidarapress

以下に出てくる革命というのは強い言葉だが、大きな社会変動はストーンの法則が描くように、中間層の識字率が上昇することによって起きる、とされる。しかし現代日本を含む成熟社会では、識字率の向上だけで社会構造を十分に説明できないだろう。高等教育への進学率は重要な指標だが、それも不十分である。こうしたエマニュエル・トッドの洞察とともに、学び合う関係 と 学び続ける知性が重要で、学習する中間層が社会を変えていくという物語を案内しておこうと思う。

◉1.「中産階級がどうなるかが歴史の帰趨を決します。マルクスはこの点を見誤りました。プロレタリア階級の勢力が増大しても何も起こらず、歴史は動かなかったのです。イギリスでも、フランスでも、ロシアでも、革命は『ストーンの法則』の通り、中間層の識字率が上昇することによって起きたのです。『アラブの春』も、中国の革命も同様です」

◉2.「時代や地域によって社会構造は異なりますから、当然『中産階級』の定義も厳密には異なってきます。マルクス主義であれば、経済的要因を偏重する定義になってしまう点に問題があります。私の場合、教育・学習にかかわる変数を重視しています。今日の先進国のように社会が発達すると、識字率だけでは社会構造を十分に説明できません。国民の識字化が進んだあとの成熟社会では、高等教育の進学率が重要な指標となります。識字率と高等教育への進学率。こうした人間開発に関わる指標が、鍵を握っているわけです。教育・学習の普及、発展、停滞が、先進諸国における社会構造を規定しているのです」

◉3.「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず、と言います。ですが、この人間世界を広く見渡すと、賢い人もいれば、愚かな人もおり、貧しい人もいれば、富める人もいます。貴人もいれば、下人もいる。この雲泥の差はどこから生まれるのでしょうか。人は学ばなければ知は新しくならないし、知を磨かなければ人は堕落してしまう。賢い人と愚かな人の差は、学ぶか学ばないかによって生じてくるのだということです」

#環連リンク エンパワリング(empowering)

reference to this page: 1-2: エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd, 1951-)『問題は英国ではない、EUなのだ』2016より編集・作成。同書は、世界像の書き替えに取り組むトッドの見方を知る入門書になるだろう。例えば「私は世界に存在する多様な家族システムを分類・分割しますが、私にとっての分類・分割とは《分ける》ことではなく、むしろ《一緒にする》オペレーションです。普通は「別」と思われているものを「同じ」とみなすのです」/「疑いもなく私は、世界の他のどの場所に行っても自分にはアクセスできないレベルの自由に到達していました」と本人が述べているように、富士山を借景とする芦ノ湖畔「山のホテル」での聞き取りで(第3章)、闊達な思考と言葉が引き出されている/3. 福沢諭吉『学問のすゝめ』初編, 1872年2月 を翻案.  note: トッドの作品は他に『最後の転落』1976; 邦訳2013, 『新ヨーロッパ大全』1990; 1992,『移民の運命』1994; 1999, 『経済幻想』1998;1999,『帝国以後』2002; 2003,『文明の接近』2007;2008, 『デモクラシー以後』2008;2009など. 『世界の多様性』1999; 2008は、トッドにとって人生の転機となった書『第三惑星』1983と、『世界の幼少期』1984から構成される/ストーンの法則:『世界の多様性』第Ⅱ部 近代性の諸次元:識字化の社会的帰結, 第6章 政治的近代性, ストーンの仮説:識字化と革命/ローレンス・ストーン(Lawrence Stone, 1919-1999)

E.Toddの認識枠組み

by shidarapress

ここでエマニュエル・トッドの語り方を見てみよう。「イギリスにはつねに、ウィンストン・チャーチル、あるいはボリス・ジョンスンのような政治家が体制内にいます。紛れもないエスタブリッシュメントの一員ですが、エリート層の少数派として民衆側につく、そんな政治家です。ですがフランスにとって大いに問題なのは、エスタブリッシュメントのなかから、大衆の利益をあえて引き受けるエリート少数派が出てこないことです」

ここには、権力システム論の古典的な見方である、社会を統治する少数のエリートと大衆という上下2分法が、エマニュエル・トッドのなかに認められる。他方、以下では3分法を活かして、中産階級こそ歴史を動かす主体だと語っている:

「中産階級に比べれば、上層の貴族層も、下層の庶民層も現代社会への影響という点でさほど重要ではありません。『1%の支配』という超富裕層と、それ以外との格差の問題はたしかに存在します。まったく不公正な格差です。しかし、このことを指摘したからといって、『西欧先進社会は閉塞状況に陥っているのに、なぜみずから方向を変えられないのか』という問題の説明にはならないのです。この問題を解くには、中産階級の分析が不可欠です。つまり、1%の超富裕層の存在を許し、庶民層の生活水準の低下を放置しているのは、中産階級だからです」

古典的な権力システム論では、社会的成層化(social stratification)という見方をするので、上下2分法、あるいは上層・中層・下層という分類法を採るが、トッドもそうした認識枠組みでヨーロッパ社会を眺めていることが示されている(民衆や大衆といった表現は原文訳のまま)。