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イリアスとエーゲ文明

『イリアス』の成立時期は判然としない。一説には紀元前8世紀半ばごろ(紀元前750年ごろ)につくられたとされる。その後、紀元前6世紀後半のアテナイで文字化され、紀元前2世紀のアレキサンドリアにおいて、今日のかたちにまとめられた、という。

ブリタニカ国際百科事典には、紀元前8世紀半ばごろの成立としながらも、原型はさらに遠くミケーネ時代(Mykēnai)に遡るという記述がある。ミケーネ文明とはエーゲ文明であり、地中海東部のエーゲ海周辺地域に栄えた古代文明。地理的にも特色的にも、先進のオリエントとヨーロッパ文明の中間に位置している。オリエントは、メソポタミアおよびエジプトを中心とする地域で、地中海より東側の地方をさす(とくにトルコ・アラブ)。ミケーネ文明については紀元前30世紀からその始まりが説き起こされ、前26世紀ごろから初期青銅器文化が芽生え、中期青銅器時代を経て(この時期にクレタやミケーネの芸術活動が飛躍的に発展)、紀元前12世紀ごろには滅んだ、と語られる。この地域は地中海型の温暖な気候で、空気が澄み、島影を見失わずに安全に航海ができた。このため先進のオリエントと海上交通で結ばれ、この地からヨーロッパの他の地域よりはるかに早く高度の文化が開けていく。

物語は不足から始まる。

次の一節を読んで、何人かの顔が思い浮かぶから引用しておく。「神がわれわれに絶望を送るのは、われわれを殺すためではなく、われわれのなかに新しい生命を呼び覚ますためである」。ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse, 1877-1962)である。物語は不足から始まる、ということも思い出してほしい。

Odysseus : An Inspiring Figure

20世紀の芸術家たちは、戦争に勝利するアキレウスよりも、遍歴生活を送るオデュッセウスの姿からより多くのインスピレイションを得ていていた。とくに文学ではアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイス(James Joyce, 1882-1941)、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソア(Fernando Pessoa, 1888-1935)、ギリシアの詩人イオルゴス・セフェリス(Giorgos Seferis, 1900-1971)、ルーマニア出身の詩人バンジャマン・フォンダーヌ(Benjamin Fondane, 1898-1944 )など。

Odysseusは、ラテン語でUlixes、またはUlysseus 。これが英語 Ulyssesの原型に。

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オデュッセイア:島の物語

『イリアス』の続篇にあたる『オデュッセイア』。本作は『イリアス』同様、全24歌から構成される。合計1万2000行の長編叙事詩。物語の主な舞台はイタケ島(Ιθάκη)である。第1歌〜第2歌、第4歌の一部、そして第13歌〜最後の24歌の物語が、島で展開される。

オデュッセイア:王の遍歴

『オデュッセイア』には何が書かれているのか。もっとも有名とされるのはオデュッセウスの冒険譚。1.オデュッセウスは、帰郷の途中で海神ポセイドンの怒りを買う。2.このためオデュッセウスは途中さまざまな妨害に遭って、旅を進めることができない。3.単眼の巨人キュクロプス(Kýklōps)、魔女キルケ(Kirkē)、女神カリュプソ(Kalypsō)、恐ろしい海の怪物セイレン(Seirēn)などに行く手を阻まれる。4.嵐に遭遇し、ついには死者の国にまで行かされる。このような困難に直面しながらも、その都度機転を利かせて切り抜けるオデュッセウスの冒険物語。実際には10年間つづいたオデュッセウスの遍歴生活が、41日間の出来事として語られる。

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セイレン(Seirēn)

イリアスの概略 2

全24歌からなる『イリアス』。第1歌は序章にあたる。アキレウスの怒りとその理由が語られる。最後の第23歌と第24歌は、パトロクロスとヘクトルの葬儀という、物語の結末が語られる。これら以外 、つまり他の21の歌では、戦闘と論争の場面が事細かに語られている。

『イリアス』には、トロイア軍とギリシア軍あわせて数百人の英雄たちが登場する。それぞれ異なる運命を担った大勢の人物たちが登場するこの叙事詩は、ひとつの物語のなかに別の物語があり、その物語のなかにさらに別の物語がある、そんな「入れ子構造」になっている。

イリアスの概略 1

『イリアス』は、トロイア戦争10年目、トロイア陥落直前の51日間を語ったものである。

1.アキレウスは、戦利品としてブリセイスという女性を与えられる。

2.アキレウスは、ブリセイスをギリシア軍の総大将アガメムノンに奪われる。

3.アキレウスは怒り、戦列を離れる。

4.その結果、ギリシア軍の劣勢がつづく。

5.アキレウスの側近で親友のパトロクロスは味方の苦戦を見かね、アキレウスの武具を借りて出陣する。だがその後、戦死。

6.パトロクロスを殺したヘクトルに復讐するため、アキレウスが戦列に復帰する。

7.アキレウスはヘクトルを殺し、その遺体を引きずり回す。

8.神々の取りなしと、ヘクトルの年老いた父であるトロイア王プリアモスの嘆願により、アキレウスはようやくヘクトルの遺体を返す。