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『オデュッセイア』(全24歌) では、冒頭、神々の会議が開かれ、女神アテナAthēnāの発議でオデュッセウスを帰国させることが決定される。第5歌から話はオデュッセウスに移り、オデュッセウスは筏(いかだ)に乗って帰国しようとするが、ポセイドンの起こした嵐で難破する。第6~12歌は、オデュッセウスが物語る数々の冒険譚が、その大部分を占める。物語のほとんどすべては、隻眼(せきがん)の巨人キクロペスや、歌う魔女セイレンなどの怪異談である。第13歌でイタケに帰還したオデュッセウスは、テレマコスと忠義な豚飼いエウマイオスの協力を得て、自分がいないあいだに家族を苦しめた悪人(求婚者)たちを討ち、妻ペネロペイア、老父ラエルテスと再会。求婚者たちの遺族との対決も、アテネの介入によって回避されて、終わる——。
「人類史上最高の物語」とも呼ばれてきた この歌物は、アテナという知恵ある媒介者(intermediator)によって、遺族にまでおよぶ報復 すなわち復讐の連鎖を断ち切り、幕を下ろす。
最後の一文は、「復讐の連鎖を断ち切る」という構造に意味を見ている。したがって、ここで注目しているのは、物語の詩的表現、登場人物、文学的技巧ではない。
『オデュッセイア』が重要なのは世界文学だからではなく、一つの文明が、報復——暴力の連鎖——をどう終わらせるかを語るナラティヴだからである。