クレムリン

復活する大国主義の物語

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恐怖支配を敷いた独裁者スターリンが、再び英雄に祭り上げられている。ドナルド・トランプ大統領の誕生が、多くのアメリカ人にとって青天の霹靂(へきれき)だったように、ソ連時代を知る人にとって、スターリンの復権はまさかの展開だと言われる。

とはいえロシアには、強権的な指導者を求める国民感情が根強く存在する。ノースウエスタン大学教授のゲイリー・モリスンによれば、ロシア人にとって90年代の民主化の試みは、大国の栄光の歴史から逸脱した混乱でしかなかった、という。

ソ連時代を懐かしむ風潮が高まるなか、プーチンの登場は、「母なるロシア」への回帰願望をうまくつかみ、多くの国民に熱狂的に歓迎された。民主主義よりも、大国主義への回帰というわけである。

スターリンの復権は、プーチン大統領が長年温めてきた構想だ、といわれている。スターリン時代を知る高齢者が次々に亡くなっていることに加え、独立系メディアがロシアにはほとんど存在しないことも手伝い(#1)、ロシア政府は、歴史を自在に歪曲できる。このことも、高まるスターリン人気の背景として指摘されている。

いまや独裁者スターリンは「歴史上もっとも重要な人物」に選ばれるまでになっている(#2)。ロシアが欧米に対して敵対的な姿勢を強め、核戦争を含めた脅威が現実味を帯びつつある背景に〔強いリーダー待望論〕と〔大国主義の物語〕の高まりがあることを見逃してはならない。

reference material:  Newsweek, August 1, 2017, p.19
#1 この投稿から4年後の2021年、ロシアの独立系リベラル紙「ノーヴァヤ・ガゼータ(Novaya gazeta)」の編集長ドミトリー・ムラトフ(Dmitry Muratov)氏に、Nobel Peace Prizeが授与される。
#2 ロシアの独立系調査機関レバダセンターの最近の世論調査。

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