ホメロスの叙事詩は、誰に対して創られたのか。
それはイオニアの市民たちに向けてである。柄谷の解釈によれば、
1.ホメロスの叙事詩は英雄たちの戦争を描いた武勲詩であるにもかかわらず、実際はそれに対する否定に満ち満ちている。
2.ホメロス叙事詩は、戦士あるいは貴族階級の「英雄礼賛」のイデオロギーとは無縁だった。
3.だから、ホメロス叙事詩は際限のない抗争に対する批判の書ということになる。
たとえば、として次のような例を挙げている。
『イーリアス』の最後で、アキレウスはヘクトールを殺したあと、それ以上の報復を断念する。また『オデュッセイア』では、もはや英雄は描かれない。
オデュッセウスは一介の外国人として放浪し、乞食として帰還する(流浪の父の帰還)。そして彼は、自分がいないあいだに家族を苦しめた敵に報復をする。
だが、報復を敵の親族にまで広げることは断念する。いずれの作品も復讐の連鎖を断ち切ることで終わっている、としている。
では復讐の連鎖は 何によって断ち切られたのか。 [ 次へ ]