Back from the Future

投稿者: shidarapress

小説家の平野啓一郎は、「過去を起点にして現代を説明すればするほど、ますます身動きが取れなくなってしまう」と記した。以下、その部分を抜粋しておこう。彼は、小説『ドーン』を書くにあたって、「想像された未来」を据えるという方法を採る。

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・・・北九州の田舎で育って、地元での生活に退屈していた私は、十代のころから外国文学が好きで、フランスに憧れるようになった。

小説の世界は、物理的にも時間的にも、遠ければ遠いほど、日常に戻ってきたときの感動が深くて、ものの考え方、感じ方に距離があればあるほど、新奇なものに触れて、自分が更新されたような興奮があった。

どんなに面白くても、読む前と読むあとで、自分がちっとも変わったという実感が得られない小説が私は嫌いで、自分の見ている日常の世界が、微塵も動揺しないような小説が嫌いだった。

『決壊』の執筆を通じてよく感じたのは、過去と現在との因果関係の規定が、いかに未来を困難にしているか、ということだった。過去を起点にして現代を説明すればするほど、ますます身動きが取れなくなってしまう。そこで、想像された未来に仮の出口を設けて、どうすればそこにたどり着けるか、あるいは、どうすればそこじゃない、別の出口へと進むことができるかを考えてみることは有意義だと思った。

いったん、未来へと赴いて、また現代に戻ってくる。それが『ドーン』の発想で、私はそのため「火星に行って戻ってきた人間」というのを、この物語の大きな枠組みとして採用した。

 

受賞の言葉「遠いところに、行って帰ってくる」

(「第19回 Bunkamura ドゥマゴ文学賞」より)

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