熱中と辞書の関係

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——タウトは日向邸に賭けていた。しかし彼の熱意は周囲から見れば異常だった。わざわざ招待したはずの世界的な巨匠が、ちっぽけな地下室の増築に、これほど熱中してしまったのである。出来映えに人々は愕然としてしまった。庭園の下につくられた地下室を、美しいオブジェクトにできるはずもなかった。写真を撮ろうにも、これほど退屈な空間は考えられない。すべては黒に近い地味な色彩に塗り込められ、いかなるエレメントも視覚的に突出することを禁じられていた。コルビュジエの設計方法とは、すべてにおいて対極的だった。

帰り道、タクシーの中でタウトを辞書で引いた。

タウト Bruno Taut
[1880〜1938]ドイツの建築家。鉄の塔,ガラスの家,色彩建築,集合住宅など進歩的作風で世界に名声をはせた。来日して日本の伝統建築を高く評価し,工芸指導や「日本美の再発見」などの著作を残した。

これでは日向邸でみせたタウトの異常な熱中はさっぱりわからない。当然だ。辞書はそうした突出した細部に紙面を割く場ではない。

いや、そうだろうか。むしろ突出した細部が、辞書の語釈を支えているのではないか。鉄の塔を建てた、日本の伝統建築を高く評価した、「日本美の再発見」を書いた——。どれも突出した細部ではないか。

このときよぎったことを忘れないようにするためには、走り書きであれ、手帳に書きとめておくのがよかろう。

「異常な熱中が突出した細部を生み、突出した細部が辞書に刻まれる」

◉ enthusiasm
【類語】crazy, wild ; engagement( 熱中、熱狂、夢中、熱中 )

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