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モンテーニュはその生活の大部分を塔のなかで過ごした。塔で暮らすということは、螺旋階段とともに暮らすということである。そこで〈彼〉は思った。スパイラルに発展していく者はみな、いわば「塔 La tour」のなかに住んでいる。それぞれの螺旋的展開の先に、どんな風景が見えるのだろうか。

「こんなメモがでてきましたよ」
「どこにあったの?」
「その蔵書のなかに挟まっていました」
「『バルザック全集』の15巻か」
「手書きですね」
「これはそうだね。いつのだろう。ところで、この“螺旋”っていう言葉をみてどう思った?」
「スパイラル、いいですね」
「これはとても重要なイメージでね」
「渦ですね、渦」
「そう。いろんなところにあるでしょう。神話の日本も渦で始まるし、地球の外側にも銀河系とか、身近なところでは、つむじとかさ。それと以前、徳島に行ったら、渦潮のまちへようこそって書いてあったしね」
「ああ、鳴門海峡ですね」
「地元のひとにうかがったら、あんまり渦潮が現れないみたいなんだけどね」
「いいんですか、そんなこといって」
「本人たちが、いってるんだもの。ま、いいじゃありませんか。しょっちゅう出現していたら、ありがたくないもの。ときどき去来するというのは大事なことなんだよ」
「まれなんですね」
「そう、まれ」
「それでいうとね、ビジネス界には“安定供給”という考え方があるでしょう。このコンセプトは大事だし、想定する状況や場面によっては必要不可欠なものだけど、近代産業社会の考え方でもあるんだよ」
「前に、流通の方たちとも話しましたね」
「そう。あのときは、仕入れる側も、小売のスーパーの側も“安定供給”ということに、ちょっと囚われすぎていたね。『いつも並んでいるものが、いつものように並んでいる』ことにすごくこだわっていた。結論だけいえば、あのときは、“あったり、なかったり”という考え方も入れてみてはいかがですか?という話をしたんだったね」
「視点を変えれば、売り場は変わりますよね」
「売り場といってもいいし、買い場といっても、遊び場といってもいいけれど、ともあれ、ビジネスというのは、生活起点で考えて、先に何をするか。先に気づくか。あるいは後手に回るかという話でしょう。それはイノベーションをどう先に起こしていくかということ。イノベーションというのは、いままでになかった見方を入れてみることです。考えにゆとりがないと、日々、懸命に手足を動かしているようでいて、堂々巡りということがありますからね」
「堂々巡り……。これも渦ですね」
「そう。これは、ダウン・スパイラルといって、下降螺旋だね。わが社を、発展する開かれた塔にするために、こころに意図的ゆとりをもたせて、それまでにない見方も取り入れてもらえるといいですね」
「ぜひ。そういえば、さっきのメモに La tourって書いてありましたね」
「ラ・トゥール、塔。フランス語で「塔」って女性名詞なんでしょう? このさき、女性たちが、アップ・スパイラルな開かれた塔をつくる。日本のさまざまな場所で、そして世界各地で。おもしろいよね。というのは、前に話した、インターミディエイターね。強いリーダーじゃなくて。これね、女性が得意なことが割に多いの。男性でももちろんいますけどね。ともあれ、結び目をつくれる人たちがトップに就いて、キイ・ノード key nodeになることで、いろいろ新しい動きが出てくると思うよ」

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