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フランスの作家ロベール・メルルに、『イルカの日』という小説がある。原題は『理性を授けられた動物』という。1967年の作品だ。イルカに人間のことば(この場合、英語)を教え込み、要人、例えば大統領を暗殺するという際どい物語である。本作が誕生した背景には、ベトナム戦争やキューバ危機があったようだ。ここで交わされる主人公とイルカの会話を紹介しよう。イルカは人間による“教育”のけっか、人間語を話せるようになっている。

主人公とイルカの会話
「いまは話しません。いまは泳ぐの」
「なぜだね」
「人間のことば、もう話したくないの」
「ぼくもだ。でも、なぜだね?」
「人間は、善くないから」(*)

「人間は善くないから」とイルカはいった。たしかに「人間は知的・道徳的に不完全」だ。だからこそヒトは、よりよきもの、より望ましいものに向けて、自らと周囲を生成変化させていくことができる。ここに “becomingのてつがく”が生まれる。人間を “human becoming”としてみる立場だ。ヒトは場への参加を通じて何者かになる、のである。

今度2月25日に「ビジネス・フィロソフィー・フォーラム」を開催する(受付は締め切りました)。そこでは、混迷する社会の先に、新たな「協働社会」を構想し、それについてお話ししながら、対話的に考えるような場にしようと思う。新たな「協働社会」とは、人間相互の関係だけでなく、人間と機械(AIやAL)との関係、さらには人間と動物・植物・微生物との——それに鉱物を入れてもよい——、よりよい関係を包摂した社会をイメージしてくれるといい。

reference:(*)堀江敏幸『正弦曲線』p.23-24より編集・作成。

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