『イリアス』の示唆する世界

投稿者: shidarapress

人類史上最高の文学とも言われる『イリアス』を読んだとき、意外にもこれは現代ビジネス論だと思ったものだ。この物語では「戦闘と論争」の場面が全体の多くを占めるが、言うまでもなく戦闘とは「戦略論」の世界であり、論争とは「論理を用いて相手を説得する行為」を指す。そこには討論も交渉も策略もある。だが(ビジネスをふくむ)人間社会はそれだけで割り切れるものではない。ホメロスは同時に、怒りと赦し、憎しみと思いやり、反抗と忍辱など、人間の心の矛盾する働きや複雑な感情模様を描き込んでいる。こうしてホメロスに導かれると共にこうも思ったものだ。『イリアス』とは異なる世界観をもった21世紀社会にふさわしいもうひとつの物語がいる、と。

note: 1.  全24歌からなる『イリアス』。神と人間と英雄の物語である。紀元前8世紀ごろの成立とされる。この古代ギリシアの詩人ホメロスによる長編の叙事詩では、まず第1歌の序章部で、この物語(詩)のテーマである「アキレウスの怒り」とその理由が語られる。続く第2歌から22歌では戦闘と論争の場面が事細かに語られ、最後の第23歌と第24歌は、パトロクロスとヘクトルの葬儀という、物語の結末が語られる。

2.  『イリアス』には、トロイア軍とギリシア軍あわせて数百人の英雄たちが登場する。それぞれ異なる運命を担った大勢の人物たちが登場するこの叙事詩は、ひとつの物語のなかに別の物語があり、その物語のなかにさらに別の物語がある、そんな「入れ子構造」になっている。

3.  『イリアス』は、トロイア戦争の全体を扱ったものではなく、将軍アキレウスの怒りと、その結果起きた出来事が語られている。危機に瀕した国家トロイアの陥落場面は、『イリアス』の続篇となる『オデュッセイア』の第8歌で語られるに過ぎない。

4.  この壮大な叙事詩は、古代ギリシアを舞台とした冒険物語であり英雄譚といわれるだけあって、残忍な戦闘シーンの羅列のようにも見える。ホメロスはそのなかに、怒りと赦し、憎しみと思いやり、反抗と忍辱など、人間の心の矛盾する働きや複雑な感情模様を描き込んだ。

5.  アリストテレスは、ホメロスをあらゆるギリシャ文学の原点と考えていたが、ホメロスとは誰なのか、一体どんな人物だったのか、正確なところは分かっていない。この「ホメロス問題 (Homeric Question)」はヨーロッパ文学の歴史上、最も大きな謎のひとつと言われている。

references to this page: アレクサンドル・ファルヌー『ホメロス』,2011 より編集・作成/noteホメロスの胸像を見つめるアリストテレス(レンブラント, 1653年制作, メトロポリタン美術館所蔵, Aristotle with a Bust of Homer  or  Aristotle Contemplating a Bust of Homer)

 

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