「新しい時刻表」の執筆

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これは、ひとつのアフォリズム(aphorism)である。

ダニロ・キシュ、『庭、灰』(1965) に登場する主人公の父親は、鉄道監査官である。つまり、実務の場における知的エリートであった。

確たる世界観をもったシステム思考の人であり、それが彼を「新しい時刻表」の執筆という、生涯をかけた事業に向かわせる。

彼がひそかに書き続ける「新しい時刻表」、すなわち『バス・汽船・鉄道・飛行機交通時刻表』の新版というのは、じつは新版や改訂版の域を大幅に超えてしまった、まったく新しい書物であって、交通という概念を入口として無限に広がる、一種の百科事典ないし世界図の様相を帯びてゆく。

それが永遠に完成しないことは読者にはわかる。参照すべき諸学として200を超える分野が羅列されている。永遠と無限。これこそまさにユダヤ的知性を示す資質であろう。


note: ダニロ・キシュ(Danilo Kiš, 1935-89), 池澤夏樹, 世界文学全集Ⅱ-06, 2009

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