いままでずいぶんいろいろなことをやってきた。私が学問の方向を変えるたびに、ひとは私の仕事にレッテルを貼り付けようとしてきたものだ。だが他人から付けられたレッテルで満足したためしがなかった。
ところが今度エラノス学会から講演に招かれた際、主催者から「あなたの専門は哲学的意味論(Philosophical Semantics)でよろしいか」と尋ねてきた。はじめちょっとびっくりした。まったく予想もしていなかったレッテルだった。しかし、このレッテルにどのような意味があるのか、ありうるのか、と考えているうちに、こちらの意味づけの仕方いかんによっては、じつにぴったりした名称だという気がしてきた。面白いものである。
「哲学的意味論」――それは私が最近胸にいだいてきたイデーを、他のどんな名称にもまして、よく表現しているように思われた。
reference to this page: 井筒俊彦,「哲学的意味論」より編集・作成. note: 井筒俊彦(1914-1993)